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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)55号 判決

原告 丸ノ内紙工株式会社

被告 カネヨ石鹸株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一双方の申立

原告は、「昭和三十四年抗告審判第二、四九四号事件について、特許庁が昭和三十七年三月十五日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は請求棄却の判決を求めた。

第二原告請求原因

一、原告は特許第二二七、六五九号「酸性粉末洗剤の製造方法」の特許権を有するものである。

すなわち、右の特許権は、斎藤泰雄が昭和二十九年九月十三日前記発明について特許出願をし(同年特許願第一九、六四五号)、昭和三十一年八月二十二日公告(同年特許出願公告第七、一八五号)のうえ、同年十二月十一日登録されたものであり、原告は昭和三十二年七月八日同人から本件特許権を譲り受け、同月二十四日その旨登録されたものである。

本件特許権の明細書のうち特許請求の範囲に記載されたところは、「本文記載の目的に於て本文に詳記した通り塩酸又は硝酸を先づ白土に攪拌しながら添加して十分吸着させ、粘状となつて発煙の衰えたる時更に攪拌しながら珪砂を添加し全体を潤製の粉末となすことを特徴とする酸性粉末洗剤の製造方法」というにある。

二、被告は次のような製造方法(以下(イ)号方法という。)によつて酸性クレンザーを製造し、これに「カネヨトイレツトクレンザー」という商品名を付して販売している。

すなわち、(イ)号方法は、「珪砂に、酸性物質と一緒に使用しても分解または変質しない界面活性剤を配合してよく混合し、これに酸性硫酸ソーダを少量の水に溶解したものを徐々に注加してよく混合し、全体を潤製とならしめるものである。」というにあり、右のうち「珪砂」とはいわゆる「尾州砂」を指し、この尾州砂には白土分が五ないし十八パーセント含まれているものである。

三、被告は昭和三十三年十二月八日原告を被請求人として、(イ)号方法について特許庁に対し、本件特許権の権利範囲に属しない旨の確認審判を請求したが(同年審判第六四五号事件)、特許庁は昭和三十四年八月三十一日右審判の請求を却下する旨の審決をした。被告は同年十月十六日抗告審判を請求したところ(同年抗告審判第二、四九四号事件)、特許庁は昭和三十七年三月十五日「原審決を破毀する。(イ)号説明書記載の方法は特許第二二七、六五九号の特許権利範囲に属しない。」との審決をし、そして、その審決書謄本は同年三月二十九日原告に送達された。

そして、その抗告審判の審決は、本件特許発明と(イ)号方法とを対比し、「前者においては、塩酸または硝酸を白土に吸着させて上記酸の発煙性を弱めることを発明を構成する必須要件とするのに対して、後者においてはこのような発煙性酸の白土処理を欠除するものであるから、たとえ両者は珪砂を添加する点においては一致するとしても、後者は前者の特許権利範囲に属しない。」としたのである。

四、しかしながら、右の審決が(イ)号方法において、「発煙性酸の白土処理を欠く」と判断したことは誤りであるから、取り消されるべきである。

すなわち、(イ)号方法において用いられている酸性硫酸ソーダの水溶液は本件特許発明にいう「塩酸又は硝酸」と均等物であり、また(イ)号方法において用いられている珪砂は前記のように白土分を含むものであるから、本件特許発明のうちの白土をもつて処理するという方法を用いていることは明らかであるからである。

(一)  本件特許発明のねらいについて

本件特許発明は、「酸性粉末洗剤」に関するものであつて、便器に付着する尿垢の類を簡単におとすことができる洗剤を眼目とするものであるところ、便器に付着する尿垢は、アンモニヤ、尿素、尿酸、燐酸など十数種の異る物質が互いに雑多な結合をし複雑な化合物となつており、磨粉、石鹸あるいは油性洗剤では容易に除去することができない。またタイル、陶器などにしみ着いた汚れも同様に除去することができない場合があるから、従来これらを洗浄するためには塩酸、硝酸またはその他の酸性液を使用し、これによつて上記汚物結合体を溶解洗浄していた。

しかし、これらの塩酸、硝酸その他の酸性液は流動性ある液体であるから、これを汚物面に使用しても、その大部分は流下し無駄を生ずるのみならず、それが他物に接触するときは、著しくこれを汚損または毀損し、さらには悪臭を伴うという欠点がある。

本件特許発明は塩酸のような酸性液を白土および珪砂に吸着させることによつて固体化しその流動性を除き、珪砂分によつて粉末化し汚物に対する接触表面積を増大させ、同時に潤性状態を形成維持させて、酸の汚物に対する作用を活発かつ迅速にさせるとともに取扱上便利にした酸性洗剤を得ようとするものであつて、本件特許発明の出願前においては、このような酸性で潤性の粉末洗剤はまつたく存在していなかつたのである。

これに対し、(イ)号方法も本件特許発明とまつたく同一の目的のもとに使用される酸性洗剤である。しかも、その洗剤の製造方法においては、その素材として本件特許発明と同じく酸性液および白土分を含む天然珪砂が用いられているのであるから、その構成は同一のものである。

(二)  酸性硫酸ソーダの水溶液について

(イ)号方法においては、塩酸または硝酸を用うることなく、酸性硫酸ソーダの水溶液を用いているが、右酸性硫酸ソーダの水溶液も便器に付着した尿垢を溶解洗浄するものである点においては本件特許発明における塩酸または硝酸と何ら変りはない。

しかも、酸性硫酸ソーダはその分子のうちに一個の水素原子をもつ酸性塩であつて、形状は塩酸等と異り常態においては固状であるが、水に溶けたときには加水分解して芒硝と硫酸になりその各々が解離して塩酸等と同じく水素イオンを生成して強酸性が現われ、水溶液の状態すなわち酸液としては、酸性洗浄剤としてその作用機構は塩酸等と均しい。

したがつて、この点からみても酸性硫酸ソーダは塩酸または硝酸と均等物である。

他面、塩酸または硝酸は、他の材料では容易に落ちないような複雑な化合物であつても、これを包含する尿垢の類を溶解洗浄するという特徴があるけれども、強い酸性の液体であるから洗剤としてこれを使用する場合必ずしも自由に安全に使用しうるものでないが、本件特許発明のように、これを自由に安全に使用できるようにする方法は、他の強い酸性液すなわち酸性硫酸ソーダの水溶液をも自由かつ安全に使用できるよう克服制禦する方法をも含むものである。

もつとも、本件特許発明の明細書においては、塩酸または硝酸が発煙することをその欠点として挙げ、その発煙を制禦することが記載されているが、発煙を制禦する目的は、この洗剤を使用する者(主婦等)が使用し易いようにするためのものであつて、生産上の利便を目的としていない。

しかも、本件特許発明に示された三材料はどれを先にし、どれを後にしても同じものが得られ、化学上の変化あるいは物理的作用には何ら変るところはない。

したがつて、本件特許発明は、前記の三材料の混合によつて新規の発明品である酸性の潤製粉末洗剤を得るところにその要旨がある。

しかも、白土を使用することによつて発煙防止のみならず皮膚や衣類の汚損をも防止することをも可能としている。発煙といい、皮膚や衣類の汚損といい、使用者が使用しにくいという酸液の欠点からいえば同じ類いのものであつて、皮膚や衣類を汚損するという欠点をもつ酸液であれば、それが発煙するかどうかは関係がない。本件発明において白土を使用しているのは、酸液の吸収をその直接の目的とするものであつて、発煙を防止することを要旨とするものではない。

(三)  白土分を含む珪砂について

本件特許発明においては、(1)塩酸または硝酸、(2)珪砂、(3)白土の三者を混合しているが、この三者を配合したものは餅のようにベタベタしたものではなく、また、砂の中へ水を入れたようなザクザクしたものでもない。全体が粘性を帯びながらさらさらした触感をもつ、潤製の粉末となるものである。この形態上の特徴は白土分と珪砂分の配合から来るもので、白土が入つているから全体に粘着性が出て酸液と珪砂が分離しないで結続され、便器の垂直面に付着させた時でもよく接触を保つ効果を出す。また、珪砂が入つているから、餠のようにベタベタしないでたわしや雑布につけた水に溶け易くしかも洗い落すのにも都合がよい。

もし、この場合白土がなく珪砂だけであるとすると、珪砂は砂のような状態のものであるから、酸液を配合してもただサクサクしたものとなつてしまい、便器の垂直面につけても付着することなく落下してしまうし、また酸液で浮上らせた汚物もこれを吸着する白土分がなければ、洗浄効果も期待できない。

すなわち、前に挙げた三者は互いに密接に結合して本件特許発明の技術内容を構成している。

(イ)号方法においても珪砂を前記酸性液と白土分とともに攪拌しているが、これによつて、白土分の粘性と、珪砂分のさらさらと分ける機能とによつて全体を潤製の粉末状とするものであり、同時に、珪砂分を用うることによつて、白土分と酸液だけでは欠けている研磨作用を付与しようとする複合効果を有する。

このように本件特許発明と(イ)号方法とは、ともに強い酸液を白土分に添加し充分に攪拌して吸着させその白土分と珪砂分によつて潤製の粉末として使用上便利な形態とする酸性の潤製粉末洗剤を製造するものであつて、この潤製の粉末状によつて便器の垂直面に付着し易く、酸液によつて他の洗剤では溶解し難い尿垢を容易に溶解させ、白土の吸着作用と珪砂の研磨作用とによつて上記の溶解した汚物を容易に浮上らせ吸着と摺脱によつて洗浄の目的を完全に果す点においてまつたく同一の思想に立脚するものである。

本件特許発明は、イオン化した酸性液に白土および珪砂を配合するものであつて、その間何らの化学変化を伴うものではなく、この三つの材料を前記目的を達する手段として配合し、これらのもつ自然力を相結合利用するようにすることを骨格とする。

他方(イ)号方法も同一の目的を達する手段として本件特許発明と同じ白土および珪砂ならびに均等物である酸性液の三材料を配合し、これらのもつ自然力を結合利用するようにしたものである。

したがつて、両者の方法の本質を形成する実体には何ら変るところはない。

第三被告の答弁およびその他の主張

一、原告請求原因第一から第三項記載の事実は認める。第四項以下の主張はこれを争う。(イ)号方法は本件特許権利範囲には属しないものである。その理由を次項以下に明らかにする。

二、原告の主張に対する反論は次の通りである。

(一)  本件特許発明のねらいについて

本件特許発明における塩酸または硝酸は洗浄力はきわめて強く、たまたまそのままの状態で使用されることはあるにしても、その性状は液体であり、人体、被服あるいは器物等に付着しては損傷を与え、かつ刺戟臭のガスを発散する危険な劇薬で一般には容易に入手できず、使用に不便である。

そこで、この危険物の洗浄の特性を利用しようとする場合、第一に、右の危険性を除去することが先決であり、第二に液体を固体化して粉末とすることが必要である。したがつて、いかに洗浄力が強くても、右の二条件を満足させるものでなければ洗浄剤としては産業上利用できない。故に、吸着力を特性とする白土をもつて処理することが必要になる。

これに対し、(イ)号方法においては、界面活性剤を主材とし、通常固体である公知の酸性硫酸ソーダを水溶液としてプラスするに過ぎないのであつて、他物に吸着することなく、そのまま容易に使用に供しうるものであるから、本件特許発明における白土処理の方法を要しないのである。

通常クレンザーは、吸着用の白土と研磨用の珪砂とを主体とし、これに種々の素材を混合するものであつて、被告も永年この方法を行つているのである。したがつて、このような公知の技術を前提とする以上、発明を構成する、素材の使用方法に関する新たな特徴はその範囲に制約のあるのは当然であつて、本件特許発明においては危険性のある液体の処理という点を除いては白土使用の特徴を見出すことはできない。

(二)  酸性硫酸ソーダの水溶液について

酸性硫酸ソーダは塩酸、硝酸、硫酸等の強酸類と異なりその酸性度は硫酸の約半分であつて、水に溶解して初めて酸性が現われるものである。しかもその取扱上何らの危険性のない酸性剤で、汚物を洗浄するに当つても前記強酸類と比べると、汚物に働く溶解力は比較的弱いため洗剤としての効力を強めるため、表面張力の小さく、浸透力の強い界面活性剤を配合して酸性剤が汚物に速かに浸透してこれを容易に溶解し両者の相乗作用により洗浄効果を充分発揮させるものである。

さらに塩酸、硫酸等は無機化合物中の強酸に属する、取扱上きわめて危険性のある酸性物質であり、法規上劇薬の取扱を受けているのに反し、酸性硫酸ソーダは硫酸の酸性度を示す水素の半分がソーダで置換されている結晶性の塩類であつて、法規上劇薬の扱いも受けていない、取扱上危険のない酸性物質である。

しかも、酸性硫酸ソーダの水溶液は発煙性および激臭を有する素材ではない。

(三)  白土分を含む珪砂について

(イ)号方法において用いられる珪砂のうちには白土分が含まれているとはいえ、(イ)号方法においては白土処理を必要とする素材を使用しておらないばかりか、右珪砂はその研磨力を利用する目的を有するに止まる。しかも、発煙性のないあるいは激臭を生じない酸類の白土による処理方法についてはすでに特許第一三二、七五三号の明細書のうちに明らかにされているところであるから、本件特許発明は発煙性を有し、激臭を発する素材の処理について白土を用うることを必須要件とするものであつて、この要件を具備しない(イ)号方法が本件特許発明の権利範囲に属しないことは明らかである。

第四証拠関係〈省略〉

理由

一  原告が本件特許発明の権利者であること、その明細書の特許請求の範囲の記載、被告が製造販売している酸性クレンザーの素材およびその製造方法ならびに特許庁における権利範囲確認の審判事件およびその抗告審判事件の経緯が原告主張の通りであることは被告の認めるところである。

二  特許庁のした抗告審判の審決においては、(イ)号方法が発煙性酸の白土処理を欠くとの理由をもつて、本件特許発明の権利範囲に属しないとしたのであるが、原告は、この判断を争つているので、以下、(イ)号方法が本件特許発明の権利範囲に属するかどうかについてみる。

(一)  先ず、両者の製造方法において用いられる素材について対比すると、本件特許発明における「塩酸又は硝酸」と(イ)号方法における酸性硫酸ソーダの水溶液とはともに酸性液であることはその物質の性質上明らかであり、また本件特許発明においては白土および珪砂が用いられているのに対し、(イ)号方法においては白土分を含む珪砂が用いられていることは当事者間に争いのない事実に徴しても明らかなところであるから、両者とも酸性液、白土および珪砂という素材を用いている点において共通しているということができる。

(二)  そこで、本件特許発明の技術的内容についてみるに、その成立に争いのない甲第十八号証(特許公報)の記載によると、本件特許発明は便器に付着する尿垢の類、タイルまたは陶器等にしみついた汚れを簡単に落す酸性粉末洗削を製造する方法に関するものであつて、そのねらいとするところは、従来これらの汚物に対して用いられていた「塩酸又は硝酸」は、その洗浄力が強いという点に利点があるけれども、その反面刺戟臭を伴うガスを発生し、あるいは人体、衣類または器物などに付着したときこれらを傷つけ、汚損するという欠点があるので、これらの欠点を防止しながら、しかももとの塩酸や硝酸と同様の洗浄力を保持する酸性粉末洗剤を得ようとしたものである。

しかも、右の甲第十八号証およびその成立に争いのない乙第九号証の各記載によれば、本件特許発明に関する当初の特許願書の明細書および最終の特許公報に記載されたところにおいて、酸性粉末剤の素材である酸性液については、塩酸または硝酸に関する記載だけであつて、これを酸性液の一つの例示として挙げているような形跡はないばかりか、かえつて、塩酸または硝酸という、便器に付着する尿垢その他の汚物に対して強い洗浄力を有するものを、酸性粉末洗剤の素材として取り入れるという重要な課題を技術的に解明したものが本件特許発明であることが認められ、そのために、この塩酸または硝酸の有する共通の欠点を防止する方法として、刺戟臭あるガスの発生という欠点に対しては、白土による処理という方法、人体、衣類または器物に対する傷損という欠点に対しては、白土および珪砂によつて潤製化するという方法を採用したものであることが認められる。

すなわち、本件特許発明は、前記のような発煙性や傷損性という欠点を有するものであつても、これを制禦して粉末剤とすることを可能ならしめたものというべきである。

(三)  以上のようにみてくると、本件特許発明において用いられている素材としての「塩酸又は硝酸」というのは、少くとも、便器に付着する尿垢その他の汚物に対する洗浄力がある反面、前記のような発煙性および傷損性という欠点のある酸性液を指すものということができ、本件特許発明はこのような素材を用いることを前提とする技術であるから、右のような性質のうちの何れかを欠く素材を用いている技術に関しては、特段の事由のない限り、本件特許発明の権利範囲の外にあるものというべきである。

ところで、(イ)号方法において素材として用いられている酸性硫酸ソーダの水溶液が発煙する性質を有しないことは、弁論の全趣旨およびその成立に争いのない乙第七号証の一の記載によつて認めうるところであるから(これに反する証拠はない。)、酸性硫酸ソーダの水溶液は本件特許発明に用いられる素材とは異なる素材であるといわなければならない。

しかし、その成立に争いのない甲第二十二から第二十五号証の各記載によると、(イ)号方法において用いられている酸性硫酸ソーダの水溶液はこれが酸性液であるという点あるいは洗浄力さらには洗剤としての欠点という点において本件特許発明における「塩酸又は硝酸」と共通するところがないではないことが認められるけれども、本件特許発明において素材として用いられている「塩酸又は硝酸」は、単に酸性液であればよいというものではなく、また、洗浄力が同じていどのものであればよいというものでもなく、さらには、洗剤として使いにくい原因としての危険性があるものを前提としているというものでもなく、前に認定したような性質を有する素材として挙げられているものとみるべきであるから、これらの点に関する原告の主張は理由がない。

この点に関する甲第二十三号から第二十五号証の各記載のうちには酸性硫酸ソーダの水溶液が本件特許発明における「塩酸又は硝酸」と均等物である旨の見解が示されているが、さきに見た本件発明のねらいとするところから見れば、本件発明における塩酸又は硝酸に代るものとしては、発煙激臭を伴うものであつて、本件発明にかかる製造方法による処理により発煙と激臭が抑制せられ、且つ取扱い易い潤製の粉末状となり、しかも便器の尿垢等に対し塩酸及び硝酸と同程度の洗浄力を保持する洗剤となり得るような酸類でなければ、その均等物ということはできないものと解するのを相当とするから、右の各見解はいずれもこれを採用し難いところであり、且つ右の点に関する原告の主張もこれを失当とするの外はない。

(四)  以上認定したところによつて明らかなように、(イ)号方法において、その素材として用いられている酸性硫酸ソーダの水溶液は、本件特許発明における「塩酸又は硝酸」と均等物ではなく、この発煙性ある塩酸、硝酸またはその均等物を素材として使用していない(イ)号方法は、その他の点について判断するまでもなく、既にこの点において右のようなものを素材として使用することを必須の要件とする本件特許発明の権利範囲に属しないものといわなければならず、この判断を覆すべき特段の事由はこれを見出すことはできない。

三  結局、これと同趣旨の本件審決は正当であるから、その取消を求める原告の請求は理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用は行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 山下朝一 吉井参也 田倉整)

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